ヒロインは誰だ…!?『#誰か『いいね!』を押してくれ』
こんにちは、いつの間にか6月になってましたね。
前回感想を書きますと言って終えたので、こちらの本の感想を書きたいと思います。
『#誰か『いいね!』を押してくれ』
星奏なつめ 著
メディアワークス文庫 せ4-5
NDC(10版):913.6
2019年12月刊行
主人公はミモザ・プディカ(『チョコレート』シリーズや『ハッピー・レボリューション』の舞台になった会社)の特別パートナー戦略事業部、通称SPSDに所属する社員、小芋 菜々美(こいも ななみ)。
そもそも主人公がヤベェヤツなんですよ。センスが壊滅的にヤベェ。こっちの語彙力も爽快にぶっ飛ばしていく勢いでセンスがヤベェ。
それなのにキラキラインスタグラマーに憧れ(嫉妬し)て自分もまた神インスタグラマーを目指す事になるんです。まあ、センスがヤベェのでお察し事案なんですけどね。
私最初はヤベェヤツのセンスを相手役の男性、もしくはアドバイザー的な存在が磨いていく、『マイ・フェア・レディ』的、『プラダを着た悪魔』的ヒロインセンスアップ系のラブコメだと思ってたんですよ。
違ったわー、ほんと違ったわー
相手役はSPSDの部長、クール系イケメン(イケオジ?)の冬真 義宗(とうま よしむね)氏。
ルックス最強、昔は営業部の若きエース。おお、これは少女漫画的では??と期待に胸躍らせてもう少し先へ進むと、この人『びっくりするくらい口が悪い』との事。そして、主人公の菜々美の事を「芋子」と呼び揶揄う男で、事あるごとに菜々美に「オジサン」呼ばわりをされている。
………なんだ、こいつ。
所謂「ヤなヤツ!!」的な相手役じゃん……少女漫画的な相手役の王道を行くタイプじゃん……
と、思ったけどこいつもこいつでだいぶヤベェヤツなのです。
彼は裏で「空透」(そらとおる)という名のスーパースタイリストとして神インスタグラマーの名をほしいままにしている、<映え>意識最優先の男でありました。
共通項は同じ職場であること、インスタで『いいね!』が欲しくて堪らないということくらいでしょう。
読んでいくと、なんとなく自分にも刺さってくるものがある。
「不公平だよ、卑怯だよ!私だってみんなにチヤホヤされたいのに……っ!」というセリフの自己顕示欲の高さと自尊心の低さとか、冬真が「空透」として無理して虚勢を張ってキラキラを演出した後の虚無感やら孤独感やらが押し寄せてきてしまう切なさとか、読んでいて「あー、何か他人事とは思えない、主に私の黒歴史をチクチク刺してくるよー、恥ずかしいよー」と脳内でゴロゴロジタバタしてしまう感じでした。
これは共感性羞恥心というやつを擽られます。
でもこれがあるからこそ登場人物に心を寄せて読めるようになるんですよね。感情移入の糸口になる。わかるわかる、だからそうなるよね、それもわかる!みたいな。勿論「いや、それは残念だけどわからんわ……」みたいな場面もあるんですけど、それが自分と登場人物との間にちゃんとした距離を保ってくれるので現実と混同しないで済む。
私はあまりにもリアルな小説は読むのにとてもエネルギーが要ると思っているので、星奏なつめ作品の程良い距離感をこよなく愛しているわけです。
そして、どっちがヒロインなんだか分かんないんですよね……「ポジティブに面倒くさい男」と評された冬真部長、途中からライバルに『いいね!』の数で猛追受けていくんです。更にそのライバルの投稿がそれこそキラキラしている。所謂「ハリボテのキラキラ」で『いいね!』を獲得してきた「空透」こと冬真部長はライバルと自分の現状を比較して焦ったり孤独に苛まれたりしていく中、「こいつはきっとOLを装ったおじさんに違いない…!」と勝手に思ってるアカウントの投稿やそのアカウントからの『いいね!』やコメントに癒されていく場面がちょいちょい描かれていきます。
それさ…そのポジションさ……
…これまで読んだ星奏なつめ作品ではそのポジション、ヒロインがやってたりするんですよね……
という事でタイトル回収。一体どっちがヒロインなんだか!!好き!!
で、最後にめっちゃ驚かされたんですよ。
星奏なつめ作品の特徴に「一冊で一つの物語が完結すること」があると思っていたのです。
今ではただの固定観念だったと言わざるを得ません。
続く、なんですよ。以下続刊!
これには今までになくワクワクさせられました。続編『大凶ちゃんと太陽くん #誰かじゃなくて君がいい』、早く読まなきゃ…!なんだよその「Don't miss it.」みたいな終わり方は!!
という事で、私は田舎の本屋さんのハシゴ旅を計画するのであった。…が、大人しく通販サイトにお願いしようかと思います。不要不急の外出は控えましょうのご時世ですもんね。
皆様もご自愛ください。