本とゲームと、それからそれから

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ゆっくり何度も味わいたいスルメ本『つむじ風食堂の夜」

スルメ本、スルメゲー。

世の中には一度でも楽しいが、何度も噛み締めるように読み、遊ぶとその「美味さ」がわかってくるような作品がある。

私にとってのスルメゲーは『ジルオール(インフィニットプラスまで)』。何度やっても良いものは良い。最近PlayStation時代の名作がNintendo Switchに移植されたりリメイクされたりしているので、ジルオールも是非お願いしたい。どうか頼む……………

 

さて、前置きはここまでにして、今回ご紹介したいのは私の中で「これはスルメ本になるのではないか……!?」という確信めいた何かを感じ取った本。

 

つむじ風食堂の夜

吉田篤弘 著 ちくま文庫 よ18-1

ISBN:4-980-42174-2

NDC:913.6

 

月舟町の十字路の角にある、店名を掲げない、名無しの食堂。その十字路の四方から風が吹き、ぶつかり合ってつむじ風を起こす場所にあるので、いつの間にかその食堂は「つむじ風食堂」と呼ばれている。パリのビストロで修行した店主とその姪のサエコさんが切り盛りしている。背の真ん中でくっきり左右に白と黒の毛が分かれている「オセロ」という看板猫もいる。

その町に最近引っ越してきた、人工降雨の研究をしている「雨降り先生」の視点で読んでいく連作短編集。「二重空間移動装置」なるものを売る帽子屋や、深夜まで店を開いている読書家の果物屋の青年、劇団の人気二番手の女優奈々津さんたちの個性的な住人達との日々を優しく噛み締めるような文体で描いている。

 

私は小さな頃家族で行くファミレスのコーンスープが大好きでした。温かくて、ほんのり甘くてとても優しい味がして、非日常感が時折鼻を擽る、いつまでも口にしていたいような幸せが詰まった味がすると思っていたものです。『つむじ風食堂の夜』を読んでいて、私は頻繁にそのコーンスープを思い出していました。温かくて、ほんのり甘くて、とても優しい味のある文、ここではないどこか……この場合は月舟町でしょうか、心がふわっとそちらへ向かっていくような心地がして、読んでいると時折鼻を擽るような不思議な幸福感を味わいつつそっと最後のページを閉じました。

 

「これは、何度でも読めるな……」

溜め息と共に思わず呟いてしまいました。

最近独り言が増えてきて、家族に不気味がられております。いいじゃない、いい本を読み終わったんだもの!思わず気持ちが声になって出てきてもおかしくないんだからね!と言い訳をしたい。

 

梅雨の時期になってきました。雨に降り込められてステイホームにも磨きが掛かる日が増えてくる頃合いです。そんな時にごろりと横になってクッションとかに頭や体を預け、時折飲み物を飲んで(熱中症にはお気を付けください)、ゆっくりとページを捲るのにこの本は最適かと思います。

つむじ風食堂の夜』はスルメ本であり、くつろぎ本でもある。そして、文の味わいを感じながらゆったり読む、のんびり読みをお勧めしたいです。